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Friday, October 30, 2020

大阪都構想住民投票、明日の投開票を控えた最終盤の情勢と展望(大濱崎卓真) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

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 いよいよ、大阪都構想住民投票(大阪市を廃止し特別区を設置することについての住民投票)の投開票日を明日に迎えました。今夏から賛成派・反対派の活動が活発化していましたが、10月12日の告示日以降は特に主張のぶつかり合いが激しくなっています。明日の住民投票投開票を前に、選挙コンサルタントの立場から情勢の分析と展望について解説していきます。

公明党が賛成に回って賛成派が有利になったのか

 2015年の大阪都構想住民投票否決から5年、大阪維新の会にとっては悲願とも言える再度の挑戦に注目が集まっています。

 まず、2015年の大阪都構想住民投票の結果を振り返りますと、「反対」705,585(50.38%)に対して、「賛成」694,844票(49.62%)と、差はわずか1万票ほどでした。この時は自民党・公明党・民主党(当時)・共産党・社民党は「反対」に回っており、「賛成」を表明していたのは国政政党では維新の党(当時)のみ、という状況でした。大変な僅差だったにも関わらず、橋下徹氏が政界引退を表明したことはまだ記憶に新しいのではないのでしょうか。

 さて、前回から状況が大きく異なるのは公明党が賛成に回ったことです。この「公明党が賛成に回った」という事実は、当初から「可決濃厚」と言われる大きな理由でもありました。直近の国政選挙である2019年参院選における公明党の大阪市内の得票数は、選挙区候補(杉ひさたけ)で約18万4000票、比例区政党名(公明党)でも約16万9000票を獲得しており、この数字は住民投票に決定的な影響力を持つと考えられていました。実際、公明党が重厚な基盤を持つ大阪は「常勝関西」の本拠地でもあり、最も強い地域として知られています。一方、大阪維新の会との対立を回避する選択を取ったことや、公明党の組織力低下が言われる中で、どれだけの集票力が今回の住民投票に反映されるかは未知数という見方も一部ではありました。

 加えて、当初は自民党内でも軋轢があったことが報道されました。大阪府連の中でも府議会メンバーと市議会メンバーとの間で温度感があったほか、安倍前首相や菅首相は大阪維新の会とは非常に近い関係と言われており、都構想についても「反対」を打ち出すことはせず、むしろ「賛成」とも思える発言が聞こえることからも、自民党支持者が一枚岩になれていない現状が浮かび上がっています。

情勢調査の数字をどう見るか

 ここまでの状況を考えれば、賛成派が多数を占めそうなはずですが、情勢調査の結果は必ずしもそうではありません。直近の情勢調査を見ると、読売新聞・読売テレビの調査(10月23~25日)で「賛成44%・反対41%」、ABCテレビとJX通信社の調査(10月24~25日)で「賛成46.9%・反対41.2%」と賛成が上回っているのに対して、共同通信社・産経新聞社ら4社合同調査(10月23~25日)で「賛成43.3%・

反対43.6%」とわずかながら反対が上回る結果となりました。各社によるバラツキがあることから、ネットでは「マスコミが情勢調査の数字を捏造している」とか「誘導尋問だった」などといった根拠のない噂が多く出回っています。

 この「情勢調査捏造説」は今回の住民投票に限らず、内閣支持率や政党支持率などを聞く情勢調査においても必ず一定の割合で出てくる噂なのですが、実態としてはこのようなマスメディアによる電話情勢調査は標本調査のため、500サンプルでおおよそ4%、1,000サンプルでおおよそ3%、2,000サンプルでおおよそ2%の許容誤差が発生するもので、今回の各社のバラツキもその点を考慮すれば許容範囲にほぼおさまっていると考えられます。また、各社によって質問文や質問順序などの設計が異なるためにある程度のばらつきは必ず発生するものですが、いずれにせよ「賛成」「反対」に大差がついている状態とは言えず、終盤にかけて反対派が勢いを増していることは事実であり、2015年に引き続き僅差の状況で投票日を迎えることには間違いないでしょう。

反対派増加の理由は「現状維持バイアス」

 それでも、今夏までは賛成派が反対派を大きく上回っていたとみられる中、10月に入ってから急速に反対派が増えている理由は何でしょうか。その一つに、「現状維持バイアス」が挙げられます。

 「現状維持バイアス」とは行動心理学におけるプロスペクト理論に基づいたバイアスの一つで、未知なるものや未経験なものに対して、それを受容することに対する心理的な抵抗が現状維持を呼び起こし変化しないことに固執するというものです。プロスペクト理論では、得られる利益と失う損失が実際には等価であっても、損失の方を大きく感じるので損失回避に走る傾向があることが分かっています。また、その時点で保有しているものを手放すことに抵抗を感じる「保有効果」も、プロスペクト理論で説明されているものです。

 今回の住民投票においては、大阪市を廃止して特別区を設置することにより、大阪市民にとっては様々なメリットやデメリットがあるとされています。政策的なメリット・デメリットは政策論争として行われていますが、その議論についていけていない人たち、理解が進んでいない人たちにとっては、政策の中身ではなく、「現状維持バイアス」による投票行動が行われる可能性が高いという点に注目する必要があります。仮に賛成多数で可決された場合、「大阪市が廃止」されることによって大阪市民は例外なく住所表記が変わること、それによって企業や個人にとっては少なからず時間的または費用的コストがかかるという点については、明らかなことだと思います。また、長年使い続けてきた「大阪市」という表記に対して愛着を持つ人やノスタルジーを覚える人が多いこともまた事実でしょう。こういった「現状維持バイアス」や「保有効果」は、政策理解の進んでいない人ほどかかりやすく、住民投票への関心は高いものの理解が進んでいない人が「賛成か反対かどちらかといえば」と聴かれれば、これらの理由によって「反対」と答える可能性が高まるという理屈です。

 2015年の住民投票でもこういった効果が見られたことから、おおさか維新の会は制度に対する理解を深めるための周知徹底や制度設計の住民理解を強力に推し進めてきました。こういったバイアスに対抗する唯一の手段は「主権者教育」「政策理解浸透」であり、都構想に対する知識を持つ人はバイアスにかかりにくくなることが分かっています。一方、毎日新聞が報じた「試算」問題をはじめ焦点となる部分で様々な情報ソースが出回り、情報の信憑性に混乱がかかっているのも事実です。こういった事象は現状維持バイアスを惹起するのには十分でしょう。

終盤の情勢をどう見るか

 告示後の期間で関心度合いが高まったものの、制度に対する理解浸透が必ずしも十分ではない現状から考えれば、終盤戦にかけて反対派が力を増していることは間違いないでしょう。期日前投票が前回住民投票よりも2割程度増えて好調に推移していると報道されていますが、コロナ禍において三密を防ぐ意識が働いていることに加えて、固定票を期日前投票によって確実に固める動きを各陣営が行っていることも見えてきます。都構想は高齢者に反対派が多く、若者に賛成派が多いと言われていますが、2015年の住民投票では20代の投票率が40%強に対して、60代・70代の投票率は70%強と大きな差がでました。賛成派は今回、SNSの活用など若い世代へのアプローチを行っていますが、若い世代に対して行ってきた施策が投票行動に結びつくかどうかも鍵となります。

 前掲の情勢調査などから考えれば、わずかに賛成派がリードしているようにも見えますが、最終盤となる今週は、大阪市による「4分割コスト218億円試算」の発表と撤回という急展開があり、これを材料に賛成派・反対派ともに過激な主張も目立つようになってきました。これらの展開や最終盤における各陣営運動がどの程度投票日までに影響するかによっては、「反対」の猛追による僅差での決着はもとより、「反対」が「賛成」を上回る可能性もまだ十分にあるでしょう。

正しい知識と情報をもとに投票を

 インターネット上では、未だに今回の住民投票が可決されることで「名称が『大阪都』になる」「『大阪市』という名称は無くならず、区だけが4つに再編される」といった誤った認識が多くみられます。各党の住民投票に対する戦いが過熱化することで一部では誹謗中傷合戦となっていることもあり、いよいよ有権者にとっては事実を掴みにくい、わかりづらい選挙戦になっています。このまま投開票を迎えれば、仮にどちらの結果であっても「ノーサイド」とならずに、後腐れの残ることは目に見えています。

 筆者は、「大阪都構想住民投票」が財務・生活サービス・名称や区割りなど様々な焦点がある点や、公職選挙法が準用されるとはいえ比較的自由な政治活動が認められているという点で、9条や「新しい権利」、首相公選制や道州制といった様々な焦点があり、国民投票法という公職選挙法とは別の法律に基づいて施行される憲法改正国民投票と似た構図だと考えています。まさに憲法改正国民投票のミニチュア版のような大阪都構想住民投票は、憲法改正国民投票のあり方を占うものと考えていましたが、こういった「政策理解の浸透」や「誹謗中傷合戦」、「ファクトとフェイクニュース」の問題が顕在化したことを踏まえれば、まずは有権者ひとりひとりが正しい知識と情報を得て、政策や主義主張に対して自分なりの理解をきちんとした上で投票をすること、そしてそのための政治活動が賛成・反対の両陣営に望まれます。

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