沿線の人口減少と新型コロナウイルスのダブルパンチにあえぐ各地の地域鉄道が、音や部品といった既存資源を活用した企画に力を入れている。車両にファンを寝泊まりさせたり、踏切音を配信したり、手すりを販売したり…。低コストで済み話題にもなりやすいが「中長期的な乗客増にはつながりにくい」との指摘もある。
ダイヤに響かぬ夜に
「思ったよりふかふか」。昨年11月下旬の深夜、静岡県富士市。岳南電車の吉原駅に止まった車両内で、西村優汰さん(26)が座席に横たわり歓声を上げる。自宅のある千葉県から東京都内の会社まで電車通勤する毎日。「普段なら迷惑行為だが、今日は堂々と楽しめる。ぜいたくな気分」
鉄道愛好家を車両に泊める異色の企画。参加者はお気に入りの“寝床”でビールを飲んだり車窓から夜空を眺めたりして思い思いの時間を過ごす。この日が誕生日だという小学6年の真覚遥輝君(12)=富士市=はすぐ隣を通過した夜行列車に「最高のプレゼント」と興奮気味に話した。
同社の担当者が「車両を夜間に活用すれば、ダイヤに影響を与えずにファンに特別な体験を味わってもらえる」と思い付いた企画。第2回となったこの日は全国から15人が参加した。
踏切音や部品販売
地域鉄道を取り巻く環境は深刻だ。国土交通省によると、2000年度以降27路線が完全に廃線となり、一部区間の休止も含めると計1041.9キロが消滅した。残った路線も多くが赤字を計上している。
こうした惨状に追い打ちを掛けたのが、新型コロナだ。前回の政府の緊急事態宣言で人が集まるイベントは軒並み中止に。観光客は激減し、在宅勤務の広がりで通勤客も減った。岳南電車も3~4月の収入が前年同期と比べて7割ほど落ち込んだ。
苦境に立つ地域鉄道が目を付けたのが、既存の資源。グッズ製作は売れ残りのリスクを抱えるが、もともと手元にあるものを活用するだけなら、コストはほぼゼロで済むというわけだ。
千葉県の銚子電気鉄道(銚子電鉄)は、ドアの開閉音や踏切音などを有料配信。鉄道部の鈴木一成さん(41)は「売れるものはどんどん売る」と腹をくくったように話す。青森県の弘南鉄道は、使われなくなった車両の車掌スイッチやドア脇の手すりなどの部品を販売し、いずれも完売したが、総務部長の桜庭博巳さん(55)は「本業の落ち込みを補えるほどの売り上げはない」と明かす。
中央大の後藤孝夫教授(交通経済学)は「各路線を知ってもらうきっかけにはなる」と各社の取り組みを評価しつつ「路線維持の決定打にはなりにくい。いかに平時の乗客増につなげられるかが鍵となる」と指摘した。
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