-世界初:15000 Gを超える遠心加速度を持つ遠心流動場分離装置の構築-
国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)物質計測標準研究部門【研究部門長 権太 聡】粒子計測研究グループ 加藤 晴久 研究グループ付は、株式会社 島津製作所【代表取締役 上田 輝久】(以下「島津製作所」という)分析計測事業部 技術部 小田 竜太郎らと共同で、10 nm ~ 40 µmの広いサイズ範囲の粒子を分級できる遠心流動場分離装置を構築した。
近年、精密なサイズ評価や高精度のサイズ分級の必要性が大きく拡大している。これは数nm単位で制御された半導体デバイスパターニング技術の実用化や、サイズの小ささゆえのポテンシャルリスクの懸念によるナノ材料規制など、サイズという特性に注目した実用化や規制が進展しているためである。流動場分離法は広いサイズ範囲の粒子を分級できることから、近年欧州では規制に対する評価に利用できる技術として注目を集めている。
今回、密閉性と高速回転を両立させた独自のローター回転機構を製作し、これを遠心流動場分離装置に導入した。これにより安定して遠心加速度15900 Gの高遠心場が実現できた(既存の欧州製装置では2700 G)。また、分離チャネルの精密設計によって、分級の高分解能化と分級時間の半減を実現できたため、今回構築した装置により短時間で高精度のサイズ分級を行える。
今回構築した装置やそれに用いた技術は、実用化や規制対応のフェーズでの精密材料設計と高精度材料サイズ分布分析への貢献が期待される。
広いサイズ範囲の材料を細かく分級することを達成した遠心流動場分離装置を構築
高性能電池材料開発や半導体デバイス製造工程管理では、材料の数nm単位での精密サイズ制御が必要となっており、サイズに基づいた精密材料分級技術は注目を集めている。また、2020年より開始されたナノ材料のREACH規制などサイズに注目した材料規制が始まり、材料開発メーカーだけでなく、分析メーカーや規制当局にも、材料を適正に管理するための高精度のサイズ計測技術が必要となっている。そのため、サイズ分布について低い精度の情報しか得られない既存の計測法を凌駕する高精度計測技術が求められていた。
上述の喫緊の計測課題を解決するため、産総研、計測機器メーカー4社、材料メーカー1社(島津製作所・日本電子・堀場製作所・日立ハイテク・白石工業)は現在計測ソリューション開発コンソーシアム(Consortium for Measurement Solutions; COMS、運営委員長は産総研計量標準総合センター 藤本 俊幸 研究戦略部長)にて、計測課題解決のための研究開発を実施している。一般的に材料は必ずサイズ分布を持ち、サイズ分布の広さが計測精度を低下させる(例えば広い分布を持つ試料は全体像の把握が困難)ことから、COMS内において産総研と島津製作所が広いサイズ分布を有する材料のサイズ分級を可能とする流動場分離技術に着目して検討してきた。
また、産総研は流動場分離法の高度化研究や本手法を活用した標準化を実施してきた。また、流動場分離法を利用し、液中粒子のサイズ分布を値付けた認証標準物質を開発した。さらに流動場分離法の国際標準化をプロジェクトリーダーとして牽引し、ISO規格の発行に至った。
一方、流動場分離装置は欧米では既に実用化されているものの、その低い分級分解能や長い分級時間などの課題が残っていた。そこで、産総研と島津製作所は既存の装置を凌駕する流動場分離装置として、高速回転を可能とする分離チャネルを利用して、材料の拡散性と比重差に基づいて材料をサイズ分級する遠心流動場分離装置の構築に取り組んだ。
遠心流動場分離装置は、図1に示すように通常の液体クロマトグラフィーのカラム部分高速回転する分離チャネルを用いている分級装置である。分離チャネルは、流路の高さが1mm以下で乱れのない流れ(層流)を維持できる精密流路であり、遠心流動場分離ではこの分離チャネルを利用して、高速回転による遠心力と、材料サイズに依存する拡散力を利用してサイズ分級を行う。遠心力の上限は装置の耐圧性能によって制限されるが、従来の装置では複数の金属や樹脂などからなるサンドイッチ構造の精密流路と、精密流路回転軸の軸シールによって耐圧性能が確保されている。しかし、精密流路については流路自体の耐圧性能、軸シールについては回転により生じる摩耗への耐性が課題であって、高速回転時の液漏れにつながっていた。
今回構築した遠心流動場分離装置は、これらの課題を解決するため精密流路には一体成型分離流路を採用して耐圧性能を確保し、さらに、軸シールの耐摩耗性能を向上させた。この結果、15900 Gもの高遠心加速度発生時でも液漏れを起こさず材料のサイズ分級を行える。
図1 今回構築した遠心流動場分離装置の概要
高遠心力が得られるため、今回構築した装置では現行の欧州製遠心流動場分離装置では不可能であった高い分離分解能が実現できた。また、従来分離できなかった小さなサイズの材料粒子も分離できるようになった。図2は30、40、50、60、70 nmのシリカ粒子の混合物の分散液について、既存の遠心流動場分離装置でサイズ分級したフラクトグラム(黒)と今回構築した遠心流動場分離装置でサイズ分級したフラクトグラム(赤)である。欧州製遠心流動場分離装置では30 nmのシリカ粒子がボイドピークと重なり、小さいサイズの粒子の分離が困難であることがわかる。また、欧州製装置ではピークの広がりが大きいため、図中に黒点線で示したように、5種類の粒子をサイズ分離した際に、各サイズの粒子によるピークの裾が重なっており10 nmごとのサイズ分級はできないことがわかる。
これに対し、今回構築した遠心流動場分離装置では30 nmのシリカ粒子のピークでもボイドピークから十分離れており良好な分離が可能であった。また、10 nmごとのサイズの粒子によるピークが完全に分離しており、分級分解能が非常に高いことがわかる。なお、今回構築した遠心流動場分離装置では、粒子の密度に分離能は依存するものの、10 nm ~ 40 µmまでのサイズ分離が可能である。
図2に示されるように分級能の向上により分級時間が増加したことから、さらなる試みとして今回構築した遠心流動場分離装置の分離チャネルの構造を流体力学的に精密設計したところ、それぞれのピークの重なり状況を変化させずに、改良前の装置と比較して銀ナノ粒子の分級時間を半分に削減できた(図3)。
今回構築した装置やそれに用いられた技術により、サイズ分布を精密に評価された先端材料開発や、目的とするサイズの粒子だけの分取によって高精度にサイズを制御された新しい材料の開発の促進が期待される。
図2 欧州製遠心流動場分離装置で分級した際のフラクトグラム(黒)と今回構築した遠心流動場分離装置で分級した際のフラクトグラム(赤)
図3 今回の遠心流動場分離装置(改良前の分離チャネル)で分級した際のフラクトグラム(黒)と分離チャネルを改良した遠心流動場分離装置で分級した際のフラクトグラム(赤):試料は銀(34、50、67、103 nm)
今回構築した遠心流動場分離装置はさまざまな分野(医療、食品、化粧品、顔料など)での新しい分析技術・サイズ分級技術として、最先端材料開発に寄与すると期待されるため、流動場分離法によるさまざまな材料の分級適合性の向上と関連する標準化を行い、この技術の普及を目指す。
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August 24, 2020 at 12:07PM
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産総研:10 nm ~ 40 µmの粒子を同じサイズごとに細かく分けることに成功 - 産業技術総合研究所
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