和月伸宏氏の人気コミックを実写化した映画『るろうに剣心』シリーズが、ついに最終章を迎える。2012年の『るろうに剣心』に続き、『るろうに剣心 京都大火編』『るろうに剣心 伝説の最期編』(14年)と3作合わせて累計興行収入125億円以上、観客動員数は980万人を突破した大ヒット作で、幕末に人斬り抜刀斎として恐れられた緋村剣心(佐藤健)が、不殺(ころさず)を貫きながら仲間と平和のために戦う姿を描いている。
コロナ禍での延期を経て公開を迎えた『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』は、原作では最後のエピソードとなる「人誅編」をベースに縁(新田真剣佑)との究極のクライマックスが描かれる「The Final」と、原作では剣心が過去を語るかたちで物語が進む「追憶編」をベースに、"十字傷の謎"に迫る「The Beginning」の2部作となる。
今回は、2012年の『るろうに剣心』から全作に出演している、斎藤一役の江口洋介にインタビュー。「The Final」では明治時代に警察官として活躍する姿、「The Beginning」では新選組時代のギラギラした姿と、別の顔を見せた江口に、この10年の作品への思いや、皆が大好きな「牙突」についての話などを聞いた。
■最初は手探りから始まった
——『るろうに剣心』10周年で、江口さんはずっと出演されていますが、そもそも最初に映画の話を聞いたときは、どういう印象だったんですか?
実はジェネレーションギャップがあって、『るろうに剣心』の存在は知っていたけど、ファンということではなかったんです。 でも斎藤一がすごく人気があるキャラクターということも聞いて、ヒールのようでもあり、同志のようにもみえる役どころということで面白そうだなと思ったことを覚えています。最初はどこまで原作のイメージに寄せていくかも手探りだったから、最初実は斎藤の“乱れ髪”もないんです。斎藤一の技である“牙突"も「ワイヤーで飛んでるけど、大丈夫なのかな……」とか、色々考えながら1作目を撮っていました。ただ、アクション時代劇ということでスタッフもがっちりとついてずっとトレーニングしていたので、「これは面白いものになるな」という予感はありました。
斎藤を作っていく過程として、1作目ではビジュアル的にもリアルな人間を描こうとしすぎたところもあったので乱れ髪もなかったんですが、実際に上映された『るろうに剣心』の反響を受けて、改めてこれだけの人に求められている作品なんだと実感して、その後は前髪も3本ぐらい出しとこうか……と出してみたりして。なかなか上手くいかないんですよ、あれが!(笑) 4作目にあたる「The Final」で、初めて原作と同じ4本になりました(笑)。10年の中でけっこう苦労して斎藤一を作り上げたから、「The Final」ではもう何も考えずに斎藤として撮影に入れましたし、さらに「The Beginning」では全部取っ払って、斎藤の血生臭さを演じたので、面白かったですね。スタートに戻った時に、今までのスタイルを全部外して飢えた狼のような斎藤のイメージがどんどん出てきました。
——そうやって試行錯誤の中で、10年の付き合いになったというのもすごいことですね。
最初は予想していなかったですし、漫画原作でこれだけ認められて、映画としてヒットし続けるのもすごい。僕もあまり漫画原作の映画にはなじみがないと思っていたんですが、そういえば自分が『湘南爆走族』(87年)でデビューしていることにも気付かされて(笑)。自分の中にあった概念を捨てることで、本当にキャラクターが乗り移ったかのように芝居が決まってくる。10年の歳月がそうさせてくれました。
■今はもう「じゃあ、牙突いきますか」
——『るろ剣』シリーズといえばアクションシーンも魅力ですが、特に気をつけられたことなどありますか?
今まで映画で色んなことをやってきましたけど、全然違うベクトルの殺陣だなと思います。刀も安全な模擬刀で、相手に当てていける。日本の時代劇は間合いで見せる武道のようなもので、「腰を入れて落とし込んで止める」といった、当てないで斬っていくやり方を習っていたのですが、『るろ剣』のアクションでは「もう1つ速く入ってください」という要望で、止めている間にこっちが斬られてしまう(笑)。近未来映画のような時代劇になるだろうと思いました。
——原作ファンにとって「牙突」は真似したくなるくらいの憧れの技で、その技を10年間放ってきたことに対して、思い出などはありますか?
そのことをもっと知っていたら、たぶんプレッシャーを感じてしまっていたと思うんですが、撮影ではリアルにスタイルを教えてもらったから「一発で仕留めるタイプなんだな」と、狩猟のようなイメージで作ったのを覚えています。この10年で色々なことを経験して自分たちのものになってきて、今ではもう何かあると「じゃあ、牙突いきますか」と、披露するシーンも増えましたね(笑)。
——「牙突」がかっこよく見えるコツなどはあるのでしょうか?
カメラマンとのアングルの中で相談しているので、何かコツがあるというよりも、毎回が違う撮影になっているという印象です。衣装も含めて、だんだんビルドアップして、よりスタイリッシュになっていく部分もあったと思うし、最初は手探りだった所から、美術、ヘアー、衣装と総合的にどんどんパワーアップしていきました。俳優としてはそんなに変えずにやってるんですけど、周囲が変化している感覚です。
映像の技術もこの10年で変わっていますし、『るろ剣』は現代の建築物がなくて抜けのいい場所でカメラも360度振れる。相当大暴れできる場所にロケがセッティングされていて、そういう現場はなかなかないし、用意されていると絶対に全力でやるしかないんです。
——江口さんがそこまでおっしゃるくらい『るろ剣』の現場はすごいんですね。
今の日本の映画製作の現状を考えても、次元が違うレベルだと思います。それはファンの人が世界中にいて作品を楽しみにしているという熱量があるからこそ。ちょっと、モンスター的な映画ですよ。
さらに、作品を撮り始めたのはちょうど震災があった2011年で、全員が「これからどういう風に生きていったらいいんだろう」と考えさせられたと思うんです。多分、大友(啓史)監督も考えただろうし、自分たちも俳優として何が出来るのかとか考えていた中でのスタートだったから、「もっとやりたい」と貪欲になっていました。今回もコロナ禍ではあるけれど、観た後に本当にすっきりする映画だから、『るろうに剣心』を観てマイナスな部分をプラスに変えて、前向きに強くなっていただきたいです。
■一切殺陣もついていない状態で対峙
——10年の間に共演者の方の成長を感じる部分もありましたか? 例えば剣心役の佐藤さんとか。
それはもちろん。健くんも最初は「若いなあ!」と思ったし、どういう作品になっていくんだろうと見ていました。剣心は不殺、斎藤は悪・即・斬なので、現場でも良い緊張感でしたね。
——最後が「The Beginning」だと、剣心と斎藤一の緊張感が1番強い状態にもなるわけで、結実したという感じですね。
本当に、「The Beginning」で新選組が剣心と対峙するシーンが全てで、斎藤の1番のハイライトだと思って演じていました。この男(剣心)に会わなかったら、最後まで来ていないわけですから、どんな心境だったのかな、と。あそこだけは一切殺陣もついていなくて、「斬るなら来い、こっちも行くぞ」という勢いでいました。だから、すごくスリリングでしたね。普通はどっちかが手を打って始まっていくんだけど、決まってないから、本当に間合いをとって、監督もギリギリまで一手合わせるか迷っていたんじゃないかな。結局「あそこで手を合わせなかったからこそ、剣心にこだわったんじゃないか」という大友さんの視点があったのだと思います。俺は、そのシーンが1番好きですね。
■江口洋介
1968年1月1日生まれ、東京都出身。『アナザヘヴン』(00年)、『闇の子供たち』『GOEMON』(08年)、『天空の蜂』(15年)などで主演を務め、『はやぶさ 遥かなる帰還』(12)、『るろうに剣心』シリーズ(12年/14年)、『脳男』(13年)、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』(14年)、『人生の約束』(16年)、『孤狼の血』(18年)、『コンフィデンスマンJP』(19年/20年)、『一度も撃ってません』(20年)などに出演。
※映画『るろうに剣心 最終章』特集はこちら!
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