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Tuesday, September 1, 2020

次世代車両HMIに求められる利用者品質とは? エレベータのボタンにコーヒー抽出マシン?…エスディーテック CTO 鈴木啓高 氏[インタビュー] - レスポンス

ホンダの初市販EV「ホンダe」には「OKホンダ!」で起動するパーソナルアシスタントが搭載される。次世代車両というと電動パワートレインや自動運転技術に目がいきがちだが、サービスデバイスとしての車両、そのプラットフォームまで考えると、車両デザインで重要なのはむしろUI/UXではないだろうか。

CASE、モビリティ革命の動きは、車両を馬力や燃費などのハードウェアスペックで売る時代から、サービスを含むユーザー体験が問われる時代へと市場を誘っている。そのユーザー体験や利用体験を演出するのがUI/UXであり、技術面で支えるのはHMI(Human Machine Interface)だ。

次世代車両求められるHMIとはどんなものだろうか。9月18日に開催される【オンラインセミナー】人間中心で考える自動車コクピットHMIとHUD設計に求める要件 ~各社のデジタルコックピット事例~に登壇する鈴木啓高氏(エスディーテック 取締役副社長 CTO)に話を聞いた。

セミナーの内容

---:さっそくですが、今回のセミナーではどんなことを講演されるのでしょうか。
鈴木氏(以下同):車両におけるHMIは、運転席まわりだけがすべてではないですが、多くの車両で、カーナビのコネクテッド機能や、インパネのマルチファンクションディスプレイ化、センターコンソールの大型ディスプレイ採用が増えてきました。具体的な機能で見てもらうため、MBUX、テスラやホンダeのコックピットなど、できるだけ事例を紹介しようと思っています。

しかし、お伝えしたいのはそれだけではありません。次世代車両のHMIというと、デジタルコックピットやAIエージェントなど機能的な話が先行しがちです。その視点だけでなく、実際にクルマに乗っている人の視点でとらえたとき、斬新なデジタルコックピットはどうなんだろうか。本当に使いやすいのか。といったことを考えてみたいと思っています。また、クルマを作る側の人にとっては「こういうユーザー視点があったのか」という気づきを与える内容にする予定です。

今のHMIはまだまだ不十分

---:大型ディスプレイは、さまざまな情報が表示できるといっても、切り替えが面倒だったり、どこにいけば欲しい情報が手に入るかわかりにくいことがありますね。

はい。自分がよく例に出すのはエレベーターのボタンやコーヒーの抽出マシンなどです。どれも機能的には問題なく、合理的に設計されているのですが、最初の操作に迷ってしまうよくない例ですよね。デジタルコックピットに限った話ではありませんが、実際のクルマでも似たような状況があるのかを考えたいと思っています。

じつは、エスディーテックは、国内外のほとんどのOEMブランドの車両のHMIについて調べています。集めたデータをベンチマークとして新しいHMIの設計や提案に活用しています。契約の関係で制限がありますが、このデータをもとになるべくわかりやすい事例で説明する予定です。

安心=安全×信頼

---:無数のHMIを評価しているとのことですが、現在の車両HMIについてはどう見ていますか?

技術的には普及前の過渡期だからという理由もありますが、いまのHMIはまだまだ不十分だと考えます。いまの延長線上に進化して行っていいのか?という疑問もあります。自分達がHMI設計で重要と思っているのは、機能的な品質に問題がなくても使いにくくてはダメだということです。機能的品質を追い求めている製品は多いですが、設計・デザインでは同時に利用時品質を考えることが重要なのです。

たとえば、生まれて初めて自動運転のクルマに乗って手放しで高速道路を走ったとします。多くの人は怖がったり違和感を感じるのではないでしょうか。機能部分を見れば、機械が操作する自動運転はミスをしないという点で安全です。しかし、人間はそれだけでは安心しません。自分の操作との微妙な違いに違和感を感じます。機械の操作のほうが安全だとしてもです。予測誤差と呼んでいますが、自動運転に対する違和感や不安は、自分の予測とは違う動き、違うタイミングによるものです。

つまり安心イコール安全ではないのです。では安心とはなんでしょうか。安心は安全と信頼の掛け算だと思っています。

---:今のHMIは機能的に安全でもドライバーの信頼の部分で安心なものになっていないということですか?

我々も研究しているので答えはまだでていませんが、HMIは機械やシステムが具現しにくい安心を提供する技術のひとつだと思っています。ロボットやAI研究ではよく「不気味の谷」という言葉が用いられます。客観的な数値化はできないが、人間とロボット、人間とAIの違いとして、人間ならだれもが感じるギャップ、不気味の谷が存在します。HMIはこのギャップを解消するものということもできます。

映画やCGで、実物や現実に近づけようとすればするほど「不気味の谷」が顕在化してしまうことがあります。映画の場合は、逆にキャラクターをデフォルメしてこの違和感を解消するという技を使ったりしています。クルマでこのような方法が適用できるかどうかはわかりませんが、この点についてUberの自動運転の研究で興味深い話があります。

自動運転や追従型のクルーズコントロールでは、画面に認識している車線や先行車両をグラフィック表示することが多いと思います。しかしこれだけでは、車両が次にどういう動きをするかがわかりません。

---:なるほど。前のクルマを認識しているけど、いま左側から合流しようとしているクルマをちゃんと認識しているのか、どのタイミングで合流車を前走車として認識しているのかわからない。で、ついブレーキを踏んでしまいますよね。

はい。自分車両の動きを予測できないので、つまり予測誤差が大きくなり人間は不安になります。それならば、LiDARの点群情報をそのまま表示してあげたほうがいいのではないか。という考え方があります。Uberの自動運転車両では、この考え方に基づいてLiDARのスキャンデータをグラフィック表示するディスプレイを備えています。

Uberのピッツバーグでの自動運転タクシーの実験で、ユーザーに見せる情報はこの方が評判がよかったそうです。フォードも似たような画面を採用しています。

HMIの今後

---:フラットディスプレイ、大画面化、AIエージェントなどのトレンドが見えてきた中、これからはどんなHMIが普及していくのでしょうか。

プリウス、ホンダe、レヴォーグ、テスラなど、いまのデジタルコックピットがどのように普及していくかは予想困難です。新しいデザインは増えていますが、どれもまだ普段使いのUIとして長期間の利用に晒されていません。

CASE車両では、クルマの機能や目的まで見直されている状態です。HMIの形は、デザインの良し悪し、機能的な正否だけでは決まりません。ユーザーがどれを選ぶか、という問題でもあるので、従来の操作性やイメージを維持するのがいいのか、リビング的なコックピットになっていくのか、いろいろな方向性がありえます。

ひとつ言えるのは、今後はさらに、利用時品質を設計段階に組み込むことが必要になってくるということです。現在の車両開発では、設計段階や製造工程、プラットフォームの制約によりHMIの実装にも制限ありますが、使いやすさ、操作を終えるまでのステップ数をいかに減らすか、といった要件を設計時から考えておくようになるでしょう。

利用時品質は、ユーザーがどう思うか、という要素が深く絡んできます。利用時品質を追求していくと人間中心設計という考え方が避けられなくなりますが、個人がどう思うかはまちまちなので、パーソナライズ、環境適応型の振る舞いといった要件も無視できなくなってくると思います。

鈴木氏が登壇するオンラインセミナーは、9月18日開催「人間中心で考える自動車コクピットHMIとHUD設計に求める要件 ~各社のデジタルコックピット事例~」

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September 02, 2020 at 06:30AM
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