電動キックボードを見掛ける機会が増えた。産業競争力強化法に基づく特例として、2021年4月に一部の規制が緩和されたためだ。Luup(東京都渋谷区)など、国の認可を得たシェアリング事業者はこれを受け、4月以降に東京都や大阪府の一部エリアなどで、シェアリングサービスの実証実験を行っている。
一方で、電動キックボードを巡る事故も増えている。無免許で電動キックボードを運転したり、本来は一人乗りの電動キックボードに二人乗りした状態で歩行者をはね、負傷させたりといった事故が続いている。
電動モビリティの販売事業者が集う業界団体、JEMPA(日本電動モビリティ推進協会)によれば、こうした事故を起こす人が乗る電動キックボードの多くは、国が定めた保安基準を満たさない車両という。
こうした保安基準を満たさない電動キックボードはどういった経緯で人々の手に渡るのか。JEMPAの会長で、公道を走れる電動モビリティの製造販売を手掛けるglafitのCEOでもある鳴海禎造さんに聞いた。
「バックミラーが小さい」「ライトをオフにできる」機体が流通
まず、電動キックボードを巡る法律について確認する。関係するのは、警察庁が所管する道路交通法と、国土交通省が所管する道路運送車両法の2つだ。
道交法は公道を走る場合に適用される、いわゆる交通ルールで、電動キックボードを「第一種原動機付き自転車」(一部は小型特殊自動車)として扱っている。一方の道路運送車両法は公道を走る車両の保安基準を定めたもので、基準を満たさない電動キックボードは違法な車両になる。
道路運送車両法の保安基準では、電動キックボードのパーツのうち、制御装置(ブレーキ)、ヘッドライト、ウインカー、テールランプ、警音器(クラクション)、バックミラーなどに規定を設けている。
これらの規定はパーツの有無だけでなく、大きさや性能についても基準を設けている。例えばバックミラーには満たすべき大きさがあり、小さすぎる場合は違反となる。鳴海会長によれば、日本のECサイトやクラウドファンディングサイトなどでは、以下のような基準を満たさない電動キックボードが出回っているという。
- バックミラーが保安基準で定められる大きさなどを満たしていない
- 2系統必要なブレーキが1系統のみであったり、最高速度と制動距離の要件を満たしていない
- 照明(ライト)がオフにできる(オフにできないことが求められる)
- 照明(ライト)の光量や高さの基準が要件を満たしていない
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「私道用」として出回る機体も
これらの電動キックボードは、なぜ基準を満たさないにもかかわらず市場に出回ってしまうのか。鳴海さんによれば、道交法などは公道を走る車両を対象としたルールのため、私道を走るキックボードの販売を制限できない点に問題があるという。
「基準を満たさないのに『公道を走行できる』としていれば詐欺になるかもしれない。一方で『公道走行は不可、私道のみ利用可』と説明すれば、保安基準を満たさない電動キックボードを販売すること自体は違法にならない可能性が高い」
こういった事情もあり、基準を満たさない電動キックボードの販売を規制するような法整備も進んでいないという。鳴海会長は、保安基準を満たさない電動キックボードは国内の大手ECサイト(Amazon.co.jp、Yahoo!ショッピング、楽天市場)に加え、クラウドファンディングサイトや「ドン・キホーテ」などの量販店で出回っており、入手のハードルも低くなっていると指摘する。
「日本で流通する電動キックボードは、残念ながら基準を満たさない車両の方が多い。何百、何千の単位ではないと思う。基準を満たさない電動キックボードは多くが輸入品のため、(ものによっては)国内の基準に適合しないまま販売していることも考えられる」
「ナンバープレート=基準に合格」ではない
電動キックボードが違法に街中を走っている状況は、歩行者にとっても自動車などのドライバーにとっても危険だ。もし街中で電動キックボードを見掛けた場合、保安基準を満たしている車両かどうかを見分ける方法はあるのか。
鳴海さんは最もシンプルな手段として、ナンバープレートをチェックする方法があると話す。ナンバープレートを取得せずに公道を走る行為は違法。そういった行為をする人が乗る電動キックボードは、ブレーキの掛かりが十分でないなど、保安基準を満たしていない可能性が高いという。
ただし、ナンバープレートが付いているから保安基準を満たしている、とは限らない。原動機付自転車のナンバープレートは一定の手続きを行うことで取得できるが、実はこれを管理しているのは国交省ではなく総務省だ。
基本的にナンバープレートは課税の対象にする車両を定めるための目印にすぎず、国交省の基準を満たしているかは取得の条件にならない。そのためナンバープレートがついているにもかかわらず、公道を走る性能が十分でない車両も存在しうるという。
問われる利用者の知識とモラル
とはいえ、そもそも私道用の電動キックボードで公道を走ってはいけないのは当たり前の話だ。鳴海さんは私道用のキックボードで公道を走る人が出て来る理由をこう分析する。
「“赤信号、みんなで渡れば怖くない”ではないが、(安全に対する)意識がまだ薄いのではないか」。
警察の取り締まりも十分ではないと鳴海さんは指摘する。「市場に流通し、実際に使用されていると思われる(基準を満たさない)電動キックボードの台数に比べると、摘発例は限られている。取り締まりが強化されれば、利用者側の行動も変わるかもしれない」
こういった現状を踏まえ、JEMPAも対応を進めている。正しい電動キックボードの乗り方や法律上の扱いなどを説明する勉強会を開催している他、今後はECサイトを運営する事業者に働きかけ、基準を満たさない電動キックボードの販売に何らかの規制を設けるよう促す方針という。
「電動キックボード=違法な乗り物というような、イリーガルなイメージが定着し、社会問題になれば(普及の)強い逆風になってしまう。新しいモビリティを受け入れるハードルは高い(と承知している)が、正しい使い方をしてほしい」
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