救急車の出動回数をご存知だろうか? 消防白書によれば、令和元年中の救急自動車による救急出動件数は663万9751件(前年比0.5%増)であり、1日あたり1万8000件以上にもなる。
その救急車が出動し、急病人や怪我人の下へ駆け付ける、あるいは病院へと急行しているのは、サイレンを鳴らしながら走行するから、これは小学生でもわかることだ。しかし残念なことに、救急車が交差点を通過しようと接近しているにも関わらず、我関せずと交差点を通過するドライバーやライダー、サイクリスト、そして歩行者がいることは珍しい光景ではなくなってきている。
つい先日も、筆者は一級国道(番号一ケタの国道)を走行中、後方から救急車が接近してきたことがあった。そのため、交差点手前で左に寄って停車していたところ、交差する道路の右側から左折して救急車とすれ違うように通過していったドライバーに遭遇した。
緊急自動車に進路を譲らない原因は色々あると思われるので後述するが、根本的な問題として緊急自動車が接近したら譲るのはマナーだと思われている人も多いようだ。
ドライバーなら教習所で習ったことを思い出して欲しい。何となく覚えているのは「緊急車両が近付いたら譲る必要がある」という部分だろうが、それはマナーではなく、道路交通法でキッチリと定められている。今回は自動車だけでなく、歩行者も守るべき義務について解説していく。
文/高根英幸
写真/Adobe Stock(naka@Adobe Stock)
【画像ギャラリー】緊急車両の通行を妨げたらどんな罰則が!? 憶えておきたい譲り方とともに紹介!!
■緊急自動車の通行を妨げた場合の罰則がある!
道交法第40条、緊急自動車の優先では「交差点又はその附近において、緊急自動車が接近してきたときは、路面電車は交差点を避けて、車両(緊急自動車を除く。以下この条において同じ。)は交差点を避け、かつ、道路の左側(一方通行となつている道路においてその左側に寄ることが緊急自動車の通行を妨げることとなる場合にあつては、道路の右側。次項において同じ)に寄つて一時停止しなければならない。2 前項以外の場所において、緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄つて、これに進路を譲らなければならない」とされている。
つまり交差点近くでは救急車の通路を確保するべく、左右どちらかに寄せて停車しなければならないのだ。
また交差点ではなく直線道路などの場合は左に寄って速度を落とす必要がある。もし交差点に警官がいて、緊急自動車が通過しようとしている時に停止せずに通過した場合、検挙される可能性はある。その場合問われるのは「緊急車妨害等違反」という罪で違反点数は1点、反則金は6000円(普通車の場合)だ。
ちなみに、高速道路上でも本線上で緊急自動車に進路を譲らず通行を妨害すると、同様の「本線車道緊急車妨害違反」が適用される。違反点数や反則金は前者と同様だ。
いわゆる青切符の軽微な違反と侮ってしまうのは危険だ。これは単純に進路を譲らなかった場合の話で、その結果緊急自動車と交通事故を起こした場合、当然のことながら事故の責任は重くのしかかる。
緊急自動車が近付いているのに進路を譲らないのには、まず「緊急自動車の存在に気付いていない」場合がある。
これは運転に余裕がなかったり、加齢により耳が遠くなっている、あるいは車内で音楽などを大きな音量で流して外部の音が聞こえなかったりするのが原因だろう。
耳が聞こえにくくなっているのであれば、窓を少し開けておくなどの対策は必要だし、車外の音が聞こえないほどの音量で音楽などを聴くのは、道交法の安全運転義務違反に問われる(衝突事故などが起きた場合)。
緊急自動車が近付いているのがわかっていても、進路を譲れない、というドライバーもいる。それは気付くのが遅れたり、突然気付いたことで慌ててしまい、戸惑いながらも止まることができずに通り過ぎてしまう、というケースだ。前述の筆者が遭遇したシーンはまさにそんな印象で、ドライバーは高齢者であった。
高齢ドライバーの比率が非常に高い現在、免許の返納を勧めたりや更新のハードルを高めるだけではなく、年齢性別を問わずドライバーとしての責任意識を高め、運転能力を維持するようにしたり、ドライビングのマナーを浸透させる必要があるだろう。ある程度の運転能力を備えたドライバーでも、とっさの時に反応できず衝突事故につながる恐れもあるのだ。
■歩行者も緊急自動車が接近したら譲るのは義務
そして、残るのは歩行者の問題だ。歩行者の場合も緊急自動車が交差点に接近したら進路を譲るのは、マナーではなく法律上でも義務と言える。
クルマのように免許制度はないし、罰金や反則金のような制度もないから罪には問われない、と思っているのであれば、少々甘い。パトカーだけでなく、消防車や救急車に乗車しているのは公務員であり、その業務を妨害するような行為があれば、公務執行妨害罪に問われる可能性があるからだ。
法律は「知らなかった」では済まされない、許されない。ドライバーは免許を取得する時に学科試験があるため、道交法を勉強するが、免許を持っていない人は法学部でなければ、なかなか法律を勉強する機会(必要性?)はない。
そのため法律に無知で、歩行者は道路交通では何も縛られない最強の存在と勘違いしている人も少なくない。歩行者が優遇されるのは、交通事故に遭った際に弱者救済の考えからのことで、実際の道路交通でヒエラルキーのように歩行者が頂点に君臨している訳ではないのだ。
したがって事故を未然に防ぐ道交法の考えから言えば、歩行者も法律を遵守しなければならないのだが、学ぶ機会を与えられていないことに甘えて、つい自分ルールで判断してしまいがちになってしまうのではないだろうか。
足早に通り過ぎれば、「自分のあたりまでなら許されるだろう」なんて勝手な解釈をしたり、自分としては救急車を避けているつもりで急いで渡るという、救急車側から見れば確実に通行できると判断することが難しくなる、迷惑な存在でしかない。
もうひとつの問題は、その歩行者も日時が違えばドライバーである可能性も高い、ということだ。ドライバーである時には緊急自動車の接近を知れば左に寄って停車するものの、歩行者である時にはクルマが停車しても「オレは歩行者様だ!」と言わんばかりに、救急車よりも先に渡ろうとする。
そこまで強硬ではなくても、「クルマじゃないから、いいか?」みたいな気持ちで、足を止めることなく横断歩道を渡り切ってしまう人はいるだろう。
それは法律に縛られているという潜在意識から来る、せめてもの抵抗みたいなモノなのかもしれないが、それによって迷惑を被る搬送される急病人、怪我人のことをちょっと考えてみて欲しい。
歩行者について話を広げると、自転車専用道を堂々と歩き、周囲を確認せずに横断する歩行者、また広い歩道がありながらも「平らだから」という理由で車道の路肩をランニング、ウォーキングする(しかも黒づくめだったりする)歩行者も存在する。彼らは、自分だけがリスクを背負い、それに納得していればいいという考えなのだろうか。
何のために法律が存在するのかといえば、それは犯罪を取り締まるためではなく、国民が安全で快適に暮らせるためのルール。それを守るのは国民の義務であり、その上で権利を利用、主張すべきだろう。
緊急自動車に道を譲らないのは非国民だと思ってもいい。それくらい厳格に考えてもいいほど、これは深刻な問題だ。
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October 21, 2020 at 07:00AM
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