JR東日本は、首都圏の通勤輸送を担う車両として、1993年に第1世代となる209系を、2000年に第2世代となるE231系を、それぞれ営業運転に投入してきました。そして、2006年に営業運転に投入したのが、第3世代となるE233系です。
コストを重視していた従来の車両
JR東日本が発足して初めて開発した一般形車両の209系では、当時首都圏の各路線で主力を担っていた大量の国鉄型車両を置き換えるため、徹底したコスト削減策が盛り込まれました。 たとえば、編成内におけるモーター搭載車(電動車)は従来型車両よりも削減されたほか、重要機器については「13年/200万キロ非解体」と掲げ、大幅なメンテナンスフリー化によるメンテナンスコスト削減を図っていました。 続くE231系でも、車両情報統合管理システム「TIMS」や、制御装置に用いる素子をIGBTに変更するなど、新たな技術は投入されていますが、コンセプト自体は209系の延長線上に位置するものでした。 一方、これらの車両の設計は、悪く言えば余裕の無いものでもありました。たとえば、京浜東北線用の209系では、10両編成のうち電動車は4両です。この形式の電動車は2両1組で動く設計なので、1組が故障した場合、残る2両で10両編成を走らせなければなりません。 もちろんこれは開発時点で想定していたものではありますが、10両編成では電動車を6両連結するのが標準となっている205系と比べると、ギリギリまで切り詰めた仕様と言えました。 民営化から約20年が経過し、経営的にも安定してきたJR東日本では、次期一般形車両の設計に際して、この切り詰めた設計から脱却し、コストを掛けてでも信頼性向上を目指した車両とすることとしました。また、車内の接客設備についても、209系以来となるフルモデルチェンジを図ることとしました。
故障に強く、車内は快適に
このような思想から生まれたE233系のコンセプトは、「故障に強い車両」「人に優しい車両」「情報案内や車両性能を向上した車両」「車体強度の向上」の4点です。 まず、主要機器については、バックアップの搭載や系統の二重化を図り、万一の故障に備えました。 目につきやすいところでは、予備のパンタグラフやワイパーが搭載されています。その他、制御装置や保安装置、補助電源装置などは回路を二重化。コンプレッサーは、4~8両編成では編成中2台、10両編成では3台と、E231系以前よりも編成あたり1台増加しました。電動車も、10両編成では6両に増えています。 これらのバックアップ機器の確保により、通常使用する機器・回路が故障した場合でも、運転の継続や自走回送が可能となっています。 モーター出力も、従来車両より向上しました。 209系とE231系に搭載されたMT68形・MT73形は、短時間であれば定格以上の性能を発揮できる交流モーターの特徴を生かし、1時間定格出力は95kWという控えめな数値となっていました。なお、209系と同世代であるJR西日本の207系は、0番台では同155kw、2000番台では同220kwのモーターを搭載しています。 E233系では、常磐線用に製造されたE531系と同じ、MT75形を採用しました。このモーターは、1時間定格出力を140kWと、従来機種よりも性能を大幅に向上。さらに騒音の低減も図っています。従来機種でも時速120キロ運転が可能な性能はありましたが、出力を向上することで、車両性能に余裕を持たせることができました。 電動車の増加とモーター出力の増強によって、車両性能も向上しました。性能の設定は投入路線によって異なりますが、中央線用の0番台では起動加速度が時速3.0キロ毎秒と、山手線用のE231系やE235系と並んで、JR東日本の地下鉄直通車両以外では最も高い加速性能を発揮。この性能が従来車両よりも向上したことで、中央線では所要時間の短縮を実現しました。 なお、E233系の最高運転速度は時速120キロとなっており、近郊タイプの3000番台と埼京線用の7000番台が、この速度で運転しています。 車内設備も、従来車両よりグレードが上がっています。腰掛幅は460ミリに拡大され、クッションも柔らかいものに。化粧板は、E531系に引き続き、白を基調とした明るいものを採用。さらに優先席付近では化粧板や床面の色を変え、優先席エリアの明確化を図りました。 また、山手線用のE231系500番台と同様に、ドア上には液晶ディスプレイを設置(3000番台を除く)。停車駅や運行情報の案内、ニュースや天気予報などのコンテンツ提供が、画面でできるようになりました。この液晶ディスプレイは、0番台では画面比率が4:3となっていましたが、京浜東北線用の1000番台以降では16:9となり、解像度も向上しています。 このほか、車外の行先表示器は、JR東日本では初めてフルカラーLEDの製品を採用。表示可能色が大幅に増え、従来車両よりも視認性が向上しました。 そして、車体の設計にもメスが入れられています。 2005年に福知山線で発生した脱線事故を受け、衝突事故発生時の安全性を高めるよう、車体側面が強化されました。 また、E233系では地下鉄直通車を除き、全番台が衝撃吸収構造を採用。踏切などでトラックのような障害物と衝突した場合にも、あえて破壊する部分を設けることで衝撃を分散し、乗務員の生存率を高める「クラッシャブルゾーン」の概念を採用することで、安全性を確保しました。 この衝撃吸収構造とクラッシャブルゾーンの組み合わせは、E231系の近郊タイプや横須賀・総武快速線用のE217系でも採用されていましたが、京浜東北線のように、主に都市部を走る車両も含めて全面的に導入したのは、E233系が初めてのことでした。 209系やE231系、後のE235系では、量産車の投入前に試作車や量産先行車を製造し、TIMSやINTEROSといった新技術を本格導入前にテストしていました。一方、E233系の場合、最初に落成した編成から間を置かずに2本目以降が落成しており、新技術のテストを兼ねた長期の試運転はありませんでした。 E233系では、TIMSの採用やメンテナンスフリー化の推進といった部分は、E231系と同じ思想の基に設計されています。つまりE233系は、E231系の質を高めた、マイナーチェンジ車両であるとも言えるのです。
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June 03, 2020 at 05:05AM
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